歯科衛生士座談会①
symposium dh歯周病における歯科衛生士の役割
こちらでは、「戸越なかやま歯科」の歯科衛生士による特別座談会をお届けします。歯周病の予防・治療・メインテナンスには、歯科衛生士の力が欠かせません。今回は、当院の歯科衛生士たちに身近な病気だけれどなかなか知られていない歯周病の治療やメインテナンスについて語ってもらいました。
座談会参加者:左から中山亮平(歯科医師)・林千明(歯科衛生士)・安野亜優(歯科衛生士)・山本愛子(歯科衛生士)
自覚症状がないまま進行する怖い病気・歯周病
中山:今回は歯周病についてお話します。まず、歯周病って日本の「国民病」って言われるくらい、大勢の方がかかっている病気です。なんと、35歳以上の約8割がかかっているというデータがあるくらいです。
林:もちろん症状の進行具合は一人ひとり違いますが、歯周病の方は本当に多いです。当院にも、歯周病でお困りの患者さまがたくさんいらっしゃいます。
安野:日本人が歯を失う原因の第1位が歯周病ですからね。決して、甘く見てはいけない病気だと思います。
中山:しかも歯周病の怖い点は、自覚症状がほとんどない点です。知らない間にどんどん進行していく。そして、気が付いた時には重症化しています。
山本:重症化すると、歯を温存できなくなることもあります。
中山:それくらい大勢の方がかかっている歯周病だからこそ、当院では歯周病の予防や治療、メインテナンスに力を入れています。歯科医師と歯科衛生士が「チームアプローチ」として、それぞれのプロフェッショナルの立場から歯周病に対して予防・治療・メインテナンスを行っていきます。
そもそも、歯周病ってどんな病気?
安野:歯周病は、歯を支える歯周組織が歯周病菌に感染することによって、破壊されてしまう病気です。組織が壊されてしまうことによって、歯がグラグラしたり、最悪の場合、抜けてしまう可能性があります。この歯を支える組織が「歯槽骨」や「歯肉」にあたるわけです。
林:歯は歯肉と歯槽骨で支えられているのですが、歯周病が進行すると歯槽骨が溶けていってしまいます。歯を支える土台の歯槽骨が溶けてしまうと歯を支えられなくなってしまうため、歯が移動してしまい歯の並びが変わってしまうことがあります。その結果、噛み合わせも不安定になってしまい食べづらいなどの症状も出てきます。
山本:虫歯の治療であれば、虫歯の部分を治療するだけで済みます。でも歯周病の場合、土台そのものが溶けて無くなってしまう病気です。これが歯周病が恐ろしい病気である所以ですね。
林:仮にどんなに歯がきれいでも、土台がダメになってしまえば歯は使うことができません。そうならないためには、歯医者でしっかりと検査を行って、「今、自分のお口の中がどんな状態なのか」を知ることが大切ですね。
安野:初期段階の歯周病は、ほとんど自覚症状がありません。当院でも、検査をして初めて「えっ!?自分、歯周病なの?」と気づかれる患者さまが多くいらっしゃいます。
山本:自分で初期の歯周病に気づくのはかなり難しいです。やはり、歯医者で検査をしないと分かりませんね。歯周病は定期的な検診と予防が大切です。
中山:でも、歯周病を予防する意識はまだ高くないと思います。だから、当院でも患者さまに予防の意識を持っていただくことに力を入れています。それに、歯周病を予防することは、あらゆる治療につながると考えます。例えば、虫歯治療でもインプラント治療でも、歯周病があると治療自体が上手く進みません。すべての治療の土台に、歯周病治療が不可欠であると考えています。
林:それくらい、歯周病治療は大事ですよね。
中山:せっかく、虫歯治療やインプラント治療をしていても、歯周病をしっかりと治療していなかったせいでやり直しになるケースさえあります。私は、それは患者さまにとって大きな不利益だと考えています。当然、一回でしっかりと治療できた方がいい。だからこそ、歯周病治療をしっかりと行ったうえで、それぞれの治療を行った方が患者さまのためになると考えています。
安野:もちろん、目の前の症状を改善することも大事ですが、当院では5年後・10年後も健康的なお口でいられるような治療を大切にしています。だからこそ、長期的な健康のためにも歯周病の予防・治療・治療後のメインテナンスが重要です。
林:私たち歯科衛生士は予防のプロフェッショナルです。治療が終わったら予防やメインテナンスの段階に移りますが、定期的に歯医者で歯科衛生士のメインテナンスを受けることで、健康的なお口の状態を維持し、歯周病や虫歯を予防することができます。
中山:やっぱり、お口の健康って治療と予防の2軸だなと思います。歯科衛生士の皆さんには期待していますよ!
歯周病はどう判断する?
安野:では、次に歯周病の判断の仕方についてお伝えしますが、まずは検査についてお伝えします。まず、患者さまのお口の中の写真を撮ります。写真を見ると、プラーク(細菌の塊)や歯石が付いている場所や、歯茎が腫れていたりするなど目にみえる炎症の状態がわかります。
林:患者さまにとって、ご自分のお口の中を見る機会はなかなかありません。こうやって写真で客観的にお口の状態を把握することは、患者さまにとっても予防意識が高まるのでメリットは大きいと思います。
安野:あとは、噛み合わせです。噛み合わせが強く当たり過ぎていたり、無意識にしている歯ぎしりや食いしばりで力が過剰にかかっていることが原因となり、歯周病が進行してしまう場合があります。そういったことも、写真からチェックすることができます。
山本:それから、歯並びも歯周病と大きく関係しています。歯並びが悪いと、どうしてもそこにプラークが溜まりやすく、しっかりとブラッシングができずに磨き残しができてしまいます。このように写真を撮ることで、いろいろな情報が読み取れます。
安野:歯周病の改善とブラッシングは深く関係していて、歯科衛生士がブラッシング指導をしてお口の中の衛生状態が改善することで、徐々に歯ぐきの炎症が引いていきます。
歯ぐきの炎症が改善した症例
治療前 | 治療後 |
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主訴 歯ぐきが気になる 診断名 歯肉炎 治療の方法 歯周基本治療 治療期間 3ヶ月 治療費用 保険適用 リスク・副作用 一時的な知覚過敏
林:写真を定期的にお撮りし、歯周病が改善されていく過程を患者さまに見ていただくことで、治療のモチベーション維持につながっていると思います。
安野:それから、レントゲン写真も撮りますね。歯を支えている骨が、どのくらいなくなっているのかは目視で確認できないので、レントゲンで確認します。
安野:あとは歯周病治療だけでなく、虫歯治療などにも役立っています。例えばレントゲンを撮ることで、歯の根っこが細菌感染を起こしているのが分かることもあります。それから、お口の中を3次元的に捉えるCTによって、立体的に骨の欠損状態を診ることができます。
左上4・5番目の歯の周囲の骨が溶けているのがCBCTでよく分かります。
林:CTだと、どの場所にどのくらいの骨があるのか・ないのかも一目瞭然です。あらゆる機器を使って、総合的にお口の中を正確に捉えるようにしています。
中山:当院の歯科衛生士はプロフェッショナル意識が高いので、患者さまの健康のためにあらゆる手段を尽くします。でも、歯周病に限らずお口の中の健康を保つためには、患者さまの日頃のケアや、定期的に歯医者に通ってメインテナンスを行うことが欠かせません。
安野:お口の健康は、患者さまと歯科衛生士の二人三脚で守るものです。
山本:歯医者では、歯周病菌の原因を取り除いたり、ブラッシング指導を行い、患者さまにはお家でしっかりとブラッシングをしていただく。この関係が築ければ、お口の健康は保たれると思います。ぜひ、私たちと一緒に頑張りましょう!
歯周病検査で歯周病を正しく把握する
安野:歯周病治療は、歯周病検査から始めてますが、まず歯周ポケットを検査します。目盛りの入った細い器具を、歯ぐきにそわせ、歯周ポケットの深さを測ります。
林:この検査を「プロービング検査」と言います。正常な歯茎の歯周ポケットは、3ミリ以内と言われています。こちらの患者さまの場合、かなり歯周ポケットが深くなっている歯があります。酷い箇所だと7ミリですね。
安野:また、重度の歯周病患者さまには細菌検査も行うことがあります。歯周ポケットの中には、歯周病菌の住み家になっています。ひと言で歯周病菌と言っても、数百種類もの菌があります。その菌もさまざまで、病原性が高い菌もいれば低い菌もいます。さらに、病原性が高い菌の中でもさらに高い菌が、「レッドコンプレックス」と呼ばれており、3菌種(P.g菌、T.d菌、T.f菌)あります。
山本:歯周病が重症化している歯周ポケットの中には、レッドコンプレックスが潜んでいます。だから、歯周病検査の一環として細菌検査を行い、どの菌が潜んでいるのかを突き止めていきます。
安野:ちなみに、歯周病菌は酸素が少ない場所を好みます。だから歯周ポケットが深くなるほど酸素が少なくなるので、歯周病菌にとっては絶好の住み家です。
林:レッドコンプレックスの中でも、特にP.g菌は血液中に含まれるヘモグロビンを好む菌です。だから、歯周病で歯ぐきに炎症がおきて出血すると、P.g菌が大喜びするんですよ(笑)。
安野:だからこそ、それらの菌が住みにくくすることが大切です。菌が住みにくい環境に変えていくイメージですね。歯周ポケットの炎症を抑えるために、感染源となるプラークや歯石を取り除いたりしていきます。
中山:P.g菌の遺伝子型を調べると、1型から5型まであります。その中でも、特に2型と4型が歯周病を重症化させることが分かっています。それらがいたら、抗菌薬を併用して治療します。その後、もう一度検査して菌がいないことを確認してから次の治療のステップに移ります。
歯周病治療では、それらの菌がお口の中に住みにくくすることが大切です。菌が住みにくい環境に変えていくイメージですね。そのためには、細菌の住み家となる歯周ポケットの炎症を抑えるために、感染源となるプラークや歯石を取り除いていきます。
林:歯科衛生士は、プロービング検査や細菌検査などのデータを基に、患者さまのお口の状態を正確に把握していきます。
歯周病はお口の中の環境整備で改善させていく
山本:歯周病は、細菌だけではなくいろいろな要素が絡み合っている病気です。例えば、身体の抵抗力であったり遺伝、糖尿病などの基礎疾患、それに喫煙の有無も大きく関係しています。他にも、歯周病は家族内で水平感染(例:夫から妻に感染する)や垂直感染(例:親から子供に感染する)する病気でもあります。だから、治療を始める前にこれらをしっかりとヒアリングすることが重要です。
中山:当院の患者さまでも、歯周病が改善されると同時に、糖尿病が改善されたケースもありました。それくらい、歯周病はあらゆる病気が絡み合っています。
山本:歯周病の治療の一環で、歯周病の原因となる柔らかい細菌の塊であるプラークを患者さまが自分で取り除けるようになっていただきます。染め出しをして、一緒にどこが磨けていないかを確認します。そのうえで、ブラッシングの仕方を丁寧にお伝えしたり、どういう歯ブラシ、フロス、歯間ブラシなどの清掃用具を使った方がいいかをアドバイスします。
林:歯周病の患者さま方は歯ぐきが下がっていることも多いので、歯ブラシの当て方にもコツがあります。どうしても、自己流で磨いてしまいがちですが、それぞれの歯ぐきに適した歯ブラシの当て方もアドバイスさせていただきます。歯間ブラシも太さやサイズがさまざまなので、一人ひとりに適したサイズを選ぶようにお伝えしています。
山本:歯科衛生士のアドバイスを元に、少しずつきちんと磨けるようになっていくのでご安心ください。歯ブラシでは落とせない見えている部分の歯石は、歯科医院で超音波スケーラーを使って落としていきます。でも、それだけでは十分ではありません。歯周病の方は歯ぐきの中の歯の根にも歯石が溜まっています。患者さまがしっかりと歯磨きができるようになり、歯ぐきが引き締まってきたら、今度は歯ぐきの中の歯の根に付着している歯石をとっていきます。
中山:それと並行して、当院では歯周病が再発しない環境整備を徹底的に行っていきます。被せ物を入れている患者さまがいるとします。その被せ物がピッタリとフィットしていないと、わずかな隙間に歯石が溜まり、そこから歯周病が発生しかねません。被せ物がずれてしまっている場合、一度外して歯石をとり、ピッタリ合うように被せ直すことで、歯周病再発のリスクを下げることができます。
被せ物がズレている状態です。
被せ物がピッタリと入ると歯肉の炎症も落ち着きます。
林:当院では、それくらい徹底的にお口の中の環境を整備しています。
中山:仮に患者さまがしっかりとブラッシングをしていても、歯周病になる原因が残っている限り、再発するリスクは常につきまといます。だから、徹底的にやるのが肝心です。
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症例タイトル 前歯部における歯周病治療と審美補綴 患者さまの主訴 前歯の被せ物の隙間が気になる 治療内容 歯周病治療および補綴治療 患者さまの年齢 62 患者さまの性別 男性 治療期間 3ヶ月 治療費用 40万円 治療する際に起こるメリット 審美的かつ汚れのつきにく被せ物を入れることができる点。歯周病の再発の防止 治療する際に起こるリスク・副作用 歯周病が落ち着くことでやや歯肉の位置の変化がある
歯周病は治療後のメインテナンスが大切
山本:歯周病は、治療が終わってからのメインテナンスが大切です。いくら患者さまがしっかりとブラッシングできるようになっても、歯ぐきの中までは磨けません。メインテナンスを行うことで自分では磨けない部分のプラークを落とすことができます。患者さまのリスクに合わせたメインテナンスを行うことで、歯周病の再発を抑えることができます。
林:たしかに、定期的に通院をすることは大変かもしれません。でも、モチベーションをしっかりと保ってメインテナンスを受けていただきたいです。
山本:メインテナンスは継続が肝心です。定期的にお口の中を診ることで、変化が分かるからです。レントゲンも定期的に撮ることで、表面的には分からない部分も見えてきます。歯周病は、早期発見・早期治療が肝心なのでしっかりとメインテナンスを受けるようにしましょう。
林:メインテナンスって、やはり患者さまの意識が大切なのかなと思います。最近いらっしゃった患者さまの話ですが、治療が終わってメインテナンスに移行されたのですが、パタッと来られなくなってしまいました。そして、しばらく間が空いていらっしゃったら、かなり虫歯が進行していました。その患者さまは、ブラッシングも丁寧にやっているのですが、どうしても磨き残しが発生してしまいます。それに食生活の変化もあったようでそれが積み重なって虫歯になり、進行していました。
山本:そのことをお伝えすると、「あぁ、やっぱり定期的にメインテナンスを受けないとダメなんですね」としみじみおっしゃっていました。これからは、しっかりと通っていただけると思います。
林:やはり、定期的にメインテナンスを受けていれば異変にすぐに気付けます。虫歯も歯周病も早期発見・早期治療が大切なので、早く治療すれば治療回数も少なくて済みますし治療費も抑えられる。メインテナンスは、メリットだらけです。
安野:そういう意味では、患者さまがメインテナンスに通うための啓発をしたり、モチベーションを維持するお手伝いをすることも、私たち歯科衛生士の大切な役目なのかもしれません。
中山:メインテナンスに終わりはありません。お口はすべての入り口です。食べ物を食べるのも、飲み物を飲むのも、空気を吸うのもすべてお口からです。そのお口が健康でないと、身体も健康でなくなる可能性があります。ぜひ、患者さまにはお口の健康への意識を高めていただき、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の高い毎日を過ごしていただきたいです。
林:そのためにも、私たち「戸越なかやま歯科」が全力でサポートします!